反幕府組織がある居住区の一件家に、
一人と一匹が住んでいる。
吉野凛花と愛鼠・鉄之介である。
そもそも、彼女はここ、離天京の
生まれではない。
名立たる武家の息女であった。
その父は夢想夕雲流という新剣術を
編み出した程の人物であり、
大名御抱えの指南役でもあった。
そんな父が、謀反を企てたとして、
藩に追われ、母は陰謀の犠牲となり、
父もまた、離天京で幕府の手により
捕らわれ打ち首となった・・・。
全て失い生きる屍になっていた所を、
この居住区に住む人々に
救われたのだ。
銃士浪とサヤ(沙耶)に
出会ったのもここである。
恵まれた環境には程遠い暮らしだが、
人々の澄んだ心が、
閉ざした心を幾分か癒してくれた。
此処でない所で生き長らえても、
廃人同様の行き方しか
出来てなかったであろう。
もう甘えてばかりはいられない
・・・鉄之介に呟く。
「いつか、今の自分から抜け出せる
日が来るはず・・・。
その時はここから出よう、
オマエと、この父さんの剣と共に」
己の決めた道に向かって一人と一匹が、
いま旅立つ。 |