過去に出逢いし友がいる。
その名は覇王丸。
過去に預かりし子がいる。
その名は蒼志狼。
そして、幕府の密命が下る。
御庭番衆・裏目付を務めて数十年、
この密命は只事ではない予感がする。
全てが離天京に
集まり過ぎている・・・。
迅衛門に長年の経験が、
そう語り掛けるのだ。
出立の朝まで、
迅衛門は酒杯(さかずき)を
片手に飲んでいた。
飲んでも飲んでも、
酔いどれることはなく、
その“予感”も
拭い切ることは出来なかった。
蒼志狼が先に門前で待っている。
「・・・・・・いくぞ、迅衛門」
玄関で草鞋(わらじ)を履きながら、
迅衛門はふと己の信条を思いだした。
『己が生き方は体でしめせ』
ここまで、
その言葉を信じてやってきた・・・
悩む事などない。
迅衛門の顔が晴れ晴れとしている。
自分の前を歩く蒼志狼の肩を叩き、
颯爽と抜いていく。
「若頭殿!!
帰った暁には、某と酒でも
酌み交わしましょうぞ!!」 |