枯華院に続く長い参道の側にある
大木を見上げている。
旧知の少女を感じた気がしたのは
此処だった。
懐かしい記憶である。
あの刻より齢を重ね、
過去は伝説となっていた。
張り合いのある猛者も
いつしか居なくなっていた。
何処からかあの少女が、
昔のように呼んだ気がした。
・・・大海の孤島で
あなたの求める全てがあります。
・・・“その場所で逢いましょう。
風にゆれる木々の葉音が、
少女の声に聞こえたのだろうか。
一人の娘の面差しが、
覇王丸の脳裏をよぎった。
黄昏に消えた女の忘れ形見であり、
数年前、忽然と枯華院から
姿を消した娘。
名を命(みこと)と云った。
大木の先の晴れ渡る虚空を
見つめる覇王丸。
「離天京・・・
戻らなければならぬか修羅道へ」
参道をいく覇王丸の目が、
鋭く輝き始めた。 |