月明かりに照らし出される江戸城。
時の幕府将軍である公方自らが
座して、その者が現れるのを
待っていた。
静寂の中、脇にあるロウソクの
炎が揺らめく。
公方の視線が揺らめく炎へ移る。
再び前を向くと、畳の中央には
白い扇子が立てられていた。
立った扇子を凝視する公方の
視線から、さらに後ろで
平伏する影がある。
「半蔵か、おまえにしては
酔狂なことをするではないか」
おもわず公方の口から声が漏れる。
問い掛ける公方の声に影も反応する。
忍頭巾から鋭い視線が覗き、
「服部半蔵、
御直御用の命有りと聞き、
只今参上仕りました」
公方が任を伝えると、
音もなく外の闇へと消えていく。
半蔵の消えた闇を見すえながら
公方がつぶやく。
「あやつめ・・・。
歳をくうても昔のままの気迫・・・
忍びとは斯く有るべきか」
半蔵の消えゆく闇は
大海にある出島へと続く。 |