〜つむじ風の臥龍プロローグ〜

 

 

離天京の奥深く、

断崖絶壁の上にある牢屋。

そこに男が一人、投獄されている。

日本全域を縄張りとした大山賊団の

首領・『つむじ風の臥龍』である。

この男は捕らえられたのではなく、

己と引き換えに、

仲間の安全を保証させる為に

投降したという、

経緯の持ち主であった。


娑婆のような、刺激も快楽もない

平穏な年月が過ぎていく。

だが、ささやかな楽しみが

一つだけあった。

それは格子戸から見える、

建造物の高見台で月の光を

浴びながら沐浴する、

白い肢体の神々しい女である。

臥龍の空想では、

未来の伴侶にまで膨れ上がっていた。


それに月夜でない時に、

出てくる男も知っていた。

白い肌に赤眼の剣士。

凄まじい剣気を放ち

鍛錬するその様は、

只者ではないと察知できる。


ある月夜の事、だらしない顔で

沐浴に見入っている臥龍のもとへ、

子分のチョビ助があらわれ、

「オォォォォオヤビィィン〜。

いぃぃ生きてたんでやすね!」

そう叫んで号泣し、

山賊団の仲間が皆殺されたことを

告げる。

呆然とする臥龍が、

鉄格子の前で崩れ落ちる。

「・・・外道めが、許せねぇ!

・・・ よくもワシとの約束を!!」

失った仲間の顔と共に、

あの美しい女の姿がよぎる。

これでは、あの剣士に捕らわれて

いるであろう女の命も危うい。

「・・・ぬぬぬぬ、未来の伴侶殿まで

殺らせはせんぞ!」

臥龍の勘違いかもしれない。

しかし、牢屋の扉は

爆音と共に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

服部 半蔵